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胡蝶の夢
第6章  腐蝕 





「想世」



もう一度…。


まるで呪文のようにその名を呼ぶ。


強ばったまま動かない彼女は、呼吸さえ忘れて時間を止めたようだった。


一歩歩を進める度に響く水音と破片の砕ける音。


辺りが一層赤に染まっていく。


彼女の瞳には僕への軽蔑も同情も無い。


なんだか空っぽだ。


操り人形にふさわしい空虚な心と身体。


僕は彼女の元に跪くと腕を取って流れる血を舐めた。


汚い。


黒崎家の穢れた血。


それでもそうせずにはいられなかった。


何に突き動かされてそうしているのか、自分でもよくわからない。


きっと彼女の感情が見たかったのだと思う。



「あっ……」



吐息が洩れる。


それは熱く息衝いた人間のそれだ。


彼女の瞳を覗きながら丹念に血を舐め取る。


破片を拾い上げようとして切ってしまったのだろう。


手の平から指先から次々溢れ出てくる。








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