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濡れて堕ちて……
第12章 審判

運転手さんと談笑をし、自宅までの道をナビしながら

タクシーはだんだん、見覚えのある、懐かしさすら感じる地元へと戻って来た。



帰って来た…。

帰って来れたんだ…。


不思議、あんなに見慣れた町並みなのに

何だかとても懐かしい。



よく来ていたレンタルショップ。

勤めていたスーパー。


そして、この道を真っ直ぐ行けば…




「運転手さん、そこの…白い外壁のマンションです」

「はい、ありがとうございます」



懐かしい…。

昔は狭いだの何だのと文句をつけてたマンション。

帰るのが苦痛だった時もあったのに、今はどんな宮殿より愛しい。



「ここで待ってて下さい!すぐにお金取って来ますから!」



マンションに入ると…、懐かしい香りが鼻をつく。

新築独特の内壁の香り。

エレベーターを使って、あの部屋まで…




嗚呼、スキップしたいくらい。





部屋の前まで来た瞬間、やっと帰って来たのだと実感した。

無意識のうちに目に涙が浮かんだ。



ドアノブに手をかけると






あ、鍵がかかってる…。

そっか、今の時間なら浩一はもう寝てるかな?

何時かは正確にはわからないけど、多分23:00近くだろう。



…起こしたら悪いけど、仕方なくチャイムを鳴らした。

1回じゃただの来客だと思うだろうし、面倒臭がりの浩一の事だから居留守を使うかも知れない。



ピンポーン…、ピンポーン…、ピンポーン


何度も何度も、しつこいぐらいに連打した。

子供の悪戯のように何度も何度も…。



「浩一、開けて!ねぇ、陽子よ!帰って来たの!ねぇ、浩一!!」



ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン!





胸に不安が広がりさっきまでの幸福感が消え失せて行く。




やっぱり、こんな女なんて会いたくない?



もしかして、私と暮らしてたこの部屋を捨ててどこかに行っちゃったとか?


それとも、今浩一の隣には


誰か、別の女性でもいるの?






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