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嵐の夜に痕をつけられて
第5章 亮太の執着
表示された電話の相手を見て、亮太は小さく舌打ちをする。


「はい、田上です。今ですか?
 もう電車乗るとこっすよ」

「……、…………」

「それ自分じゃないとダメなんすか?」

「……、……」

「はい、はい、あー……分かりました。戻ります」


電話を切ると亮太は「クッソ、めんどくせぇな」と独り言を言って私に振り返った。


「今度荷物取り行くから覚悟しとけよ」

「絶対来ないで。もう私に関わらないで」


咄嗟に言い返した私に亮太は少し驚いた顔をしたけれど、フンと鼻で笑い今来た道を会社の方へ引き返して行った。



亮太が視界から消えるまで見送ると、大きく息を吸って吐いた。
思わず両手で自分の腕を抱きしめる。

怖かった。
あんなに強引なことをする人じゃなかったのに。
私が亮太にありのままの自分を出せなかったように、亮太もまた私には本性をさらけ出すことは出来なかったのかもしれない。

いや、しなかっただけか。
この二年間、私たちはお互い外面だけで付き合っていたんだ。

そう思うと少しだけ胸がチクリと痛くなった。
次に誰かと付き合うことがあったら、思っていることを素直に言えるようになるだろうか。

誰と付き合っても同じかもしれないけれど。
そもそもまた誰かと付き合えるかも怪しいけれど。

自分のあまり期待出来ない未来を想像して立ちすくんでいると、今度は私の携帯が鳴った。
着信画面の名前を見て胸が跳ねた。

一瞬迷ったあと、応答マークをタップする。
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