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おっかない未亡人
第9章 無垢な間男
「そろそろ車検だったよね?」

慎吾が家に来る
お母さんから時折手料理の差し入れがあって慎吾が持ってきてくれるのだ
毎回とりとめもない世間話をしてお茶飲んで帰る流れだった

幸子はタッパーを冷蔵庫に入れた 

「シンちゃんところにお願いしようかな。」

「かしこまりました~。」 
 
慎吾が部屋を見回している
このごろだいぶ夫の物を捨てた

「最近松下さん来た?」

「来ないよ?」

「いや、煙草の匂いするなって。」

関本にはリビングで吸わせないようにしてたけど、それでも会社でも外でも彼と居るのだ
あたしの服にも染み付いたのかもしれない

嬉しい
離れていても身近に感じられる

「職場で吸う人多いからさ。移ったのかも。」

ごまかす

シンちゃんはこの間のお母さんの発言どう思ってるかな
聞けずにいた
この人と寝たことはあるけどそれはもう過去のことだ
今更どうにかなりたいとも思わなかった

「彼氏でもできた?」

「どして?」

「急に綺麗になったから」

慎吾がこちらを見ている

「シンちゃんは髭が濃くなったね」

はぐらかす

「江戸時代だったらあり得るのかもね。長男が戦いで戦死して次男と結婚的な。」

「家と家だったからね昔は。」

慎吾がお茶を飲み干す
最近浮いた話は聞かないけれど慎吾もなかなか良い歳だ
そのうちあたしの知らない誰かと結婚して家庭を持って遠いところに行っちゃうのだろうなあ
なんだか寂し

1人でふつふつと考えていると
慎吾が意を決したようにこちらを向く

「俺はそれでもいいよ。」

「へ?」

「俺は、幸子ちゃんと将来考えてもいいよ。」

てもいいって何?
何目線?
あたし貰ってくれなんて頼んでないし
腹が立ってきた

「やっぱ車検〇〇社に出そっと。」

「え、ええーーー!」

慎吾が目を丸くしている
夫に似て真面目なのだ

「嘘よ。冗談よ。」

慎吾が笑っている

「相変わらず幸子ちゃんには敵わないよ」


慎吾を玄関まで見送る

「いつもありがとね。お母さんにもよろしく。またご飯でもいきましょう。」

口をついて出るのはうわべの防御の言葉だ
これいっとけば角立たず
あたしいつからうわべ人間になったんだろ
嘘も上手くなったな


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