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海に映る月の道 〜last tango in Paris〜
第4章 Valet & Earl 〜従者と伯爵〜
「…その少女は当時の北白川当主が留学していたケンブリッジ大学近くに在る小さな花屋の娘だった。
大学祭に使う花を仕入れに来たご当主と、美しく気立てのよいその娘は直ぐに恋に落ち、やがて子どもをもうけられた。
大学ご卒業後は仲睦まじく、ロンドンで暮らされていたが、当時は国際結婚など許される時代ではなかった。
どちらの側もな…。
ましてや、北白川伯爵家は日本の大貴族だ。
しばらくしてご当主の帰国が決まり、二人は泣く泣く別れられたのだよ」

…確かに20世紀初頭の今ですら、国際結婚は稀だ。
偏見と差別は未だに凄まじい。
当時は、尚更だろう。
「…辛いですね…」
狭霧は胸が痛んだ。

「…しかし北白川当主は、誠実な男性だった。
ヨークにある使用人付きの美しいカントリーハウスを購入し、それを娘と子どもに与えた。
都会では口さがない者が多い。
田舎暮らしをさせたのは、娘や子どもが誹謗中傷に晒されないためだろう。
毎月の養育費も子どもが成人するまで欠かさなかった。
…娘は、だから当主を恨んだりしなかった。
ずっと感謝しつつ、ヨークの豊かな自然の中、幸せに子育てし、穏やかに一生を終えた。
…娘が亡くなると、遥か日本から丁寧なお悔やみの言葉の手紙が届いたそうだ。
それは、当主の妻からだった。
北白川当主は、その数年前に亡くなっていたからね。
当主は妻に遺言を残していたのだ。
…自分が亡くなったのちにも代々、ヨークのカントリーハウスとそこに住まう者に敬意を払い、大切にし、生活や屋敷に必要な費用を欠かさずに送るように…と。
それは忠実に守り続けられた。
…北白川家の人々は優れた資質をお持ちなだけでなく、心の優しい方々なのだ。
…時代は流れ、今、そのカントリーハウスの住人は北白川伯爵家と親しい交流を結び、領地管理人として屋敷を…そして、当主のご子孫をお守りしているのだ」

狭霧ははっと思い至った。
「…マレーさん…。
もしかして…」
…マレーの面影に、どこか日本的な繊細な情緒が透けて見えた。

マレーは微かに…けれど誇らしげに微笑んだ。

「…そう。
私はその娘の孫なのだよ…」




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