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密会
第12章 🌹March🌹(終章)-3



「お願い!捨てないで!!」


美月は身体の不調も忘れて日比谷教頭の元まで一直線に駆け寄ると、リングボックスを手に持った彼の右腕を掴んだ。


「何の真似だ?もう終わった話だ。お前は早く...」


早くベッドで休みなさい。
そう言い聞かせるつもりだった日比谷教頭は、そこで押し黙った。
ずっと意図的に避けていた美月の顔を、よりによって今にも泣きそうな彼女の顔を至近距離で見てしまったからだ。

美月は、動揺して固まった彼の一瞬の隙を見逃さずに、彼の手から指輪を引ったくるように奪うと、リングケースを両手に抱えた。


「返しなさい、美月。我々が持っていても仕方がない。もうその指輪に価値は無い。早く返しなさい。」



教え子を諭すようにそう言い聞かせる日比谷教頭だったが、美月は首を何度も左右に振った。



「返さない。絶対に返さない。これは私にとって貴方の...貴方の想いが詰まった大切な贈り物なの。私が死ぬ程欲しかった宝物なの。だから簡単に...簡単に処分するなんて言わないでよ!」


最後は感情的になりながら、泣き叫んで訴える美月の声が室内に響き、そして潮が引いたような静寂が訪れる。
涙で滲んだ美月の視界が徐々にクリアになっていく。
彼は苦悶の表情を浮かべていた。



その表情は昨夜、美月を抱き潰す際、苦しげに吐き捨てた彼を彷彿とさせた。



“俺は喉から手が出る程、お前との子供が欲しかった。“



彼の呻くような声が美月の脳裏を過る。


続いて「下衆な男の戯言」だと

そう否定した彼の落ち着き払った声を思い出す。


覚えていないわけがない。


貴方は本当に




嘘ばっかり





全てを理解した彼女は、張り裂けそうな胸の痛みを感じていた。


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