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ターゲットはシニア
第8章 その七
ひと月ほど前、マキさんからメールが送信されてきた。
内容は中学二年生の美しい女の子のことだった。あの事件の最大の被害者で、結果的にマキさんが命を救った女の子の心の傷について書かれていた。
それは興味のある内容ではあったものの、僕が待ち望んでいる彼女の返事ではない。未だに彼女の「時」が満ちていないのなら、そろそろ諦めるべきなのかも知れなかった。
しかし、新たな女性を見つけるのは大変だ。今夜がまさにそうだった。昔味わった、
「仕方ないんじゃない?もうお爺ちゃんなんだからさ」
だとか、
「勃たないのなら、お金の無駄じゃない?」
だとか言われたときの嫌な思いをまたする羽目になった。
マキさんだけは僕を年寄り扱いしなかった。タオルがどうとか、バスルームがどうとか、そんなことも気にしていなかった。僕の目からは、マキさんは心から楽しんでいるように見えた。あの夜以来、彼女のことが頭から離れなくなってしまったのだ。
あんな人と巡り会える機会がもう一度来るのだろうか。
翌日。
昨夜の女の顔を忘れたくて、会社の事務員の顔でも拝みに行こうかと思いついた。
珍しく富士夫は社長のデスクに座っていた。
「お早う御座います、会長」事務員たちの挨拶で富士夫は私に気づいて立ち上がった。
「僕を会長と呼ぶの、やめさせてくれんかのう。僕は給料なんか一切受け取ってないんだからさ」
「あはは。おはようございます、お父さん。会社に顔を出すのは久し振りですね。新しい子が入ってないか見に来たんですか」
「人聞きの悪いことを。しかしせっかくそう言うんなら、聞かせてくれ。新人はどのくらい入った?みんないい人なんだろうね」
「いい人かどうかはなかなかねえ。いい人みたいに見えても実は、って人はいますからねえ。この間も失敗したところでして」
「失敗?何事だ」
「新金岡店なんですけどね。良さそうな人だったんですよ。人懐っこい顔をしてて、愛想も良くてね。ところがですね、ほら、ちょっと前に女性三人監禁事件というのがあったでしょ」
マキさんが巻き込まれたあの事件のことだ、と僕はすぐに気づいた。しかし気にする素振りはせずに、
「うん、覚えているよ」そっけなく答えた。
内容は中学二年生の美しい女の子のことだった。あの事件の最大の被害者で、結果的にマキさんが命を救った女の子の心の傷について書かれていた。
それは興味のある内容ではあったものの、僕が待ち望んでいる彼女の返事ではない。未だに彼女の「時」が満ちていないのなら、そろそろ諦めるべきなのかも知れなかった。
しかし、新たな女性を見つけるのは大変だ。今夜がまさにそうだった。昔味わった、
「仕方ないんじゃない?もうお爺ちゃんなんだからさ」
だとか、
「勃たないのなら、お金の無駄じゃない?」
だとか言われたときの嫌な思いをまたする羽目になった。
マキさんだけは僕を年寄り扱いしなかった。タオルがどうとか、バスルームがどうとか、そんなことも気にしていなかった。僕の目からは、マキさんは心から楽しんでいるように見えた。あの夜以来、彼女のことが頭から離れなくなってしまったのだ。
あんな人と巡り会える機会がもう一度来るのだろうか。
翌日。
昨夜の女の顔を忘れたくて、会社の事務員の顔でも拝みに行こうかと思いついた。
珍しく富士夫は社長のデスクに座っていた。
「お早う御座います、会長」事務員たちの挨拶で富士夫は私に気づいて立ち上がった。
「僕を会長と呼ぶの、やめさせてくれんかのう。僕は給料なんか一切受け取ってないんだからさ」
「あはは。おはようございます、お父さん。会社に顔を出すのは久し振りですね。新しい子が入ってないか見に来たんですか」
「人聞きの悪いことを。しかしせっかくそう言うんなら、聞かせてくれ。新人はどのくらい入った?みんないい人なんだろうね」
「いい人かどうかはなかなかねえ。いい人みたいに見えても実は、って人はいますからねえ。この間も失敗したところでして」
「失敗?何事だ」
「新金岡店なんですけどね。良さそうな人だったんですよ。人懐っこい顔をしてて、愛想も良くてね。ところがですね、ほら、ちょっと前に女性三人監禁事件というのがあったでしょ」
マキさんが巻き込まれたあの事件のことだ、と僕はすぐに気づいた。しかし気にする素振りはせずに、
「うん、覚えているよ」そっけなく答えた。