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ターゲットはシニア
第8章 その七
「僕の会社だと知ってたんですか」

「ええ、とにかく座りませんか」

 僕はマキさんの隣に腰掛けた。

「連絡を待ってたんですよ。待ちきれずに諦めかけていたんですが、まさか近くにいたとは」

「一度夜の仕事を始めたら、昼の仕事を続けるのは難しいんですね。窮屈って言っていいかしら。まわりに人が多過ぎて」

「昼間だと余計なものまで目に入る、ということですか」

「あッ、そういうことか!やっぱり岡崎さんとは話しが合うなあ。これからまたよろしくお願いします。マキって名前、見つけてくださいね」

「それはつまり夜の商売に戻るということですか」

「そう考えてるとこなんです」

「そりゃ大賛成です」と僕は喜び勇んで言った。
「あの夜のあなたはとても明るく輝いてました。僕には神々しい観音さまにも見えたものです。真知子、いやマキさん、すぐにでもカムバックしてください。僕は一番の優良顧客になりますよ」

「岡崎さんにそう言ってもらえると勇気が湧いてきます。あとはこの間みたいなことがあったらどうしようかってことを、今考えてたところなんです」

「そうですね。それは考えないと」
 僕は振り返って府営住宅の建物を見直した。
 壁はあちこち剥がれ落ち、破壊されたオートバイが壁を背にして転がっているし、生活ゴミも散り捨てられている。
 この人をこんなところに置いといてはいけない、と僕は思った。

「ねえ、僕の家のひと部屋をお貸ししますから、そこに引っ越しませんか」

「え?」マキさんは目を丸くして、僕の目を見た。

「干渉はしません。勝手に部屋に入ることもしません。それでね、よければ僕が運転手兼マネージャーになりますよ。そうすれば様子がおかしいとか、時間になっても戻って来ないとかすぐに気がついて、手が打てますからね」

「でも岡崎さんはそんなことでいいんですか」

「僕はもうアレが駄目なのは知ってますよね。僕の望みはマキさんと一緒の時間を過ごしたい、ただそれだけなんです。うちに来てくれるなら、こんなに嬉しいことはないんですが」

「本当?」

「本当ですとも!」

「 本当に一緒にいるだけでいいの?お洋服とか、着たままでいいの?」

「 あッそれは・・・」

「私はして欲しいことがあるんだけどなあ」
マキさんはそう言うと、僕を見つめながら顔を近づけてきた・・・。



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