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義娘のつぼみ〜背徳の誘い〜
第2章 憧れの家族
 ――参ったな、自分も『敬語とさん付け禁止』という、妻の要望に応えてあげないと。武司は骨身に染みる思いがした。

「そうか。茉由ちゃんの機嫌が治ってよかったよ」

「――それ!」

 茉由の口調がやや厳しくなる。彼女はくりっとした、大きな瞳を武司に向けた。

「わたしを娘だと思うのなら、わたしのことも『ちゃん』はやめて」

 そうだった。確かに彼女の言うとおりだ。自分のことを父親だと思って欲しいと彼女に要求しておきながら、武司は自ら彼女との間に距離を置いていたのだ。まさに目から鱗(うろこ)が落ちる思いだった。

「そうだね。本当にバカだな、俺は……」

 車のフロントウィンドウから差し込む西日が眩しかった。

 やがて周囲が見慣れた景色になってきた。まもなく二人の家だ。


「それじゃあ茉由、買い物の荷物を持って先に家に行ってて。こいつは俺が運ぶから」

 武司は後部座席の巨大サメを、車の外へ出すのに苦戦していた。

「はあい、パパ」

 え? と思い、茉由を見る武司。彼は耳を疑った。

「――今、なんて」

「ん? パパって言ったの」

 そう言うと、彼女は武司の元に近づき、

「外ではそう呼んだ方がいいと思ったの。ホントは恥ずかしいんだけど」

 小声で耳打ちする。

 この子はこの歳で世間体を気にしているのか。全く、彼女には驚かされることばかりだ――武司はつくづくそう思った。

「ただいま」

 マンションの駐車場と玄関の間を二度往復して、買い物の荷物を全て運び込んだ茉由と、サメを抱えた武司はほとんど同時に家の奥に声を掛けた。

「お帰りなさい」

 すぐにエプロン姿の理恵が出迎える。彼女は夕食の準備の真っ最中だった。

 理恵は武司が抱える巨大サメを見ると、

「なあに、それ?」

 と、呆れた声を上げた。

「お誕生日プレゼントで買ってもらったの」

 すかさず茉由が答える。

「ダメだった?」

 手にした荷物を下ろしながら、おどおどと母親を見上げる茉由。

「ううん、よかったわね。大切にするのよ?」

 母親は微笑みながら答えた。

「二人とも、ちゃんと手洗いとうがいしてね」

 理恵は言いながら、買い物の荷物をリビングに運ぶ。

 武司は荷物の残りを持ち、彼女の後に続いた。
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