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狂愛の巣窟 〜crossing of love〜
第10章 【狂愛の巣窟〜ラスト・シーン〜】





「慣れてないよ、本当はドキドキしてる、こんなところに連れて来ちゃったこと」




「僕のこと、覚えててくれただけで嬉しかった」




「覚えてるよ、名前教えたもん」




そう、彼はたまたま入ったガソリンスタンドで働いていた渡辺航平くん。
綺麗な顔立ちだから忘れることはない。
まだ幼くてあどけない、垢抜けてない感じが母性をくすぐる。




「たくさんキスしたのも覚えてますか?」




片付けていた手が止まる。
「覚えてるよ」と小さく答えた。
海辺のドライブもしたし、帰り道に何回もキスした。
話題を変えるべく食事メニューを手渡した。




「お腹空いてない?何か食べた方が良いよ」




「僕だけですか?この気持ち」




場所が場所なだけに……仕方のないことだけど。
バックから携帯を出して亨さんに遅くなることを伝える。
その手を止めてきたのも彼だ。
背後から抱き締められる。




「誰?旦那さん?」




「私すぐ帰るから、好きなの頼んでね?ゆっくり休んで」




「何で?何でそこまで優しくするの?あなたにとって僕は何なの?」




「此処に入ったのはやむを得ず、びしょ濡れなキミを見過ごす訳にはいかなかった、良心よ?私は結婚してる、前にも言ったよね?困ってるなら助けるし人として普通のことをしたまでだけど?」




幸い私は雨で濡れてもないのですぐに帰れる。




「自宅、戻れたなら連絡して?心配だから」




バックを持って立ち去ろうとした。
バスローブ姿のキミは慌ててドア前に立つ私を止めてきた。
手をついて外に出してくれない。
熱い息が肩に掛かる。




「もう少しだけ………傍に居てくれませんか?」




後ろ向きのまま肩に頭を乗せて、声が少し震えてる。




「わかって言ってる?私、既婚者だよ?良心のまま、帰らせてくれないかな?」




「僕は男として見れない?十和子さんにとって子どもですか?」




「今日はもう帰らなきゃ……」




「あと少しだけ……ほんの少しで良いから」




振り返るとシュンとした顔。
ゆっくり目が合って、背が高いから見上げる私。









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