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3度目にして最愛
第3章 3度目にして最愛を知る


終電を逃してしまった二人は、その後タクシーを拾った。水城の帰りを誰も待っていない賃貸マンションが現れると、彼女の顔が恐怖で引き攣った。

「運転手さん、悪いが行き先を変更してくれねえか?」東条は何も言わずに水城に「乗りな」と視線で促した。
一瞬戸惑いを見せた水城が、またタクシーに乗車し、閑静な住宅街から市街地の多棟型マンションが見えてきた所で、タクシーが停止した。

磨かれたエントランスのテラコッタタイルを抜けて、「汚えけど」と言って、8階の中部屋2LDKに水城は案内された。
頭から温いシャワーを浴びて、自由に使っていいと言われた8畳程の広さの洋室に水城は足を踏み入れた。
紺色の分割式マットレスベッド、ドレッサー、クローゼット、チェストに立て掛けられたフォトフレーム。

その白いフォトフレームに納められた写真には避暑地らしき観光地で麦藁帽子を被った女が東条の腕を掴み、あどけない笑みを浮かべていた。


ああ....そういう事....。

親切心なんて、最初から無かったんだ。


自殺未遂の赤の他人を自宅に連れ帰り、浴室と、彼女もしくは配偶者の部屋を提供する酔狂な男の心理は追求するまでもなく1つだと彼女は思った。


「彼女の代役にはなれません。出ていきます。」


ビジネスバッグから取り出したメモ帳の1枚を雑に破り、そこに一筆殴り書きをして、写真立てをペーパーウェイトのように使った。

神経がささくれだっていた水城は、生乾きの髪のまま東条が浴室へ入ったのを確認すると、物音を立てずに出て行ったのだった。





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