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海鳴り
第7章 満ち潮
律子が船に近づいて行くと、舵取りをしていた平田が相沢に頭を下げながら、しきりに礼を言っているのが聞こえてくる。


「…これで思い残す事は何もねえ、カズさん、ありがとう、恩にきるよ」

「なに言ってんだ、…これからも頼むつもりでいるからよ、早く身体治してくれよ」

「…あぁ、あぁそうだな、そうするよ。…アハハ」

「舵取りじゃ誰もヒラさんにはかなわねえんだから。……おい直也、ヒラさんを家まで送ってってくれ」

「はい、いってきます。……行きましょう平田さん」

「ヒラさん、本当にありがとうございました」



相沢が深々と頭を下げた。


「よ、よしてくれ、バカ野郎。……じゃあな」


平田は涙を滲ませ背中を向けた。

相沢は平田の小さな背中を見送り、再びゆっくりと頭を下げた。


「父ちゃん、律子先生が来たよ」

「あぁ」


武の言葉に振り向いた相沢は緊張気味の律子に軽く頷いた。


「あ、あの、お疲れ様でした」


西日を背にした相沢がひと回り大きく見える。


「あぁ…、疲れた」


少し笑い、ほっとしたように律子を見た。

これまでとは少し違う物言いに、律子は胸が熱くなって目を伏せた。




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