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海鳴り
第9章 夕凪
「…和男さん…」


夜中に訪ねて来た相沢を、律子は眠い目を擦りながら招き入れた。


「……っ…」


相沢の背後でドアが閉まる前に、律子は強く抱き締められた。


「和男さん…」

「………」


相沢は何も言わず、切なそうに律子の顔を覗き込み、瞼や頬に唇を押し付けてまた抱き締める。

律子は黙って相沢の背中に両手を回した。


「寂しい…」


耳元に響く絞り出すような声。

初めて耳にした相沢のその言葉は、ずっと海の底に沈めていた苦しみの発露のようで、律子は戸惑いながらも両手に力を込めた。

平田が亡くなってから2ヶ月、相沢は夜中によくこうして訪ねて来るようになった。

律子を抱き締め、「すまねえな」とだけ言い残してそのまま帰る事がほとんどだったが、今夜はこのまま帰したくはない。

相沢が腕を緩めた時、律子は少し背伸びをして相沢の首に手を回し、唇を奪った。


「…ぅ…」


驚いて身を引いた隙に上着のファスナーを素早く下ろすと、火が着いたように激しくキスを返してくる相沢の上着を剥ぎ取った。




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