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あの海の果てまでも
第4章 新月の恋人たち 〜新たなる運命の扉〜
「え?何の話だ?」
ロンは怪訝そうな貌をした。

「さっき私の半生をこちらのお客様にお話ししていたのですよ」
「半生…て、お前まだ二八じゃん。
何、年寄りみたいなこと言ってんだよ」
ロンはふっと笑いながら、浩藍の隣に無造作に座った。
そうして、人懐っこい笑顔で暁を見た。
「こんにちは。
日本人かな?
お金持ちっぽいし、品があるもんな。
ほかのアジア人と違って」
屈託なく話す様子もなぜか嫌味がない。

「こんにちは。初めまして。
縣暁と申します」
生真面目に挨拶を返す暁に
「アガタアキラ…。変わった名前だね。
アキラでいいかな?」
にこにこ笑いかける。

「…ロン。
馴れ馴れしいですよ。
今日初めていらしたお客様なのに」
嗜める浩藍に
「いいじゃん。
ここに来て藍のお茶を飲んだお客はもうお前の友だちだろ?
てことは俺にも友だちってことだ」
全く悪びれる様子もない。
けれど、それがとても魅力的に映る…そんな男だ。

「…全く…。
すみません。暁さん。
ロンはいつもこんな感じなんです」
「いいえ。
…嬉しいです。
僕、英国に来てまだ友だちがひとりもいないので…」
思わず本音を漏らしてしまう。
ロンの屈託ない明るさと朱の包み込むような静かな優しさに、心が開かれてゆくようなのだ。

「そりゃ良かった。
俺たち、友だちの一号二号な!」
「…なんですか、それ。
汽車じゃないんですよ。全く。
貴方はいつもふざけてばかりなんだから」

二人の掛け合いに、思わずくすくす笑い出す。
笑いが止まらない暁に、朱とロンが不思議そうに見つめる。
「…すみません…。
僕…倫敦に来て初めてこんなに笑ったかも…」
涙目で笑い続ける暁に、ロンは白い歯を見せてにっこりした。

「よし。じゃあ、藍の淹れたお茶で乾杯だ。
藍。俺には珈琲な。
熱いモカマタリを頼むぜ」

「…全く。
私の店で中国茶を飲まないのは貴方くらいですよ」
ため息を吐きながらも立ち上がり、暁を振り返る。

「…暁さん。改めて乾杯しましょう。
とびきり美味しくて綺麗な花茶を淹れますね」

藍は優しく匂いやかな白い花のように微笑んだのだ。




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