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あの海の果てまでも
第4章 新月の恋人たち 〜新たなる運命の扉〜
二杯目のお茶を注ぐ朱に、ロンが何気なく尋ねた。
「そう言えばさ、藍。
店の手伝いは、見つかったのか?」

朱は困ったように首を振る。
「いいえ。
なかなか良い人が見つからなくて…」

ロンが唸る。
「そっかあ。
…まあ、英語が堪能でお茶を淹れられて、アジアの商品の知識があって、店も経理も任せられる信用がある人間…てなかなかいないよなあ。
俺も知り合い当たっているけど、藍のお眼鏡に叶う人間はなかなかだな…」

う〜ん…と考え込む二人に、暁は思わず声を掛けた。
「…どうしたんですか?」

暁の貌を見て朱は少し困ったように微笑んだ。
「実は私が最近お茶の教室の講師に呼ばれることが多くなりましてね。
…今、倫敦の上流階級の間ではシノワズリ趣味が流行っているのです。
それでマダム達の間でちょっとした中国茶ブームが起きまして、私にも声が掛かるようになったのです」

ロンが補足する。
「藍はこの通りの美人だし、英語も上手い。
ロンドン大学の教授のアルフレッドからの紹介もあったらしい」

「…アルフレッドは、私を出来るだけ外の世界に連れ出そうとするのですよ。
私が外で生き生きしているのが嬉しいらしいです」
はにかんだように微笑む朱は、はっとするほどに美しい。
「ご馳走様」
やや憮然と合いの手を入れるロンを睨む振りをして、話を続ける。
「それで私が留守の間、店を任せられるひとを探しているのですがなかなか…」

…と、朱が突然、切長の涼やかな瞳を見張った。
「あ!」

急に叫ばれて、暁は驚いた。
「ど、どうしました?」
「…見つけました」
「へ?」
面食らう暁に、朱はにっこりと大輪の牡丹の花が咲くように笑った。

「暁さん。
貴方、この店で働いてみませんか?」


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