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メダイユ国物語
第3章 幕間 その一
 それは断頭台――ギロチンだった。オズベリヒはこれから国王の処刑を行おうとしていた。

 ラバーン王国では、近年に入ってからは罪人の処罰に斬首刑を行う制度を廃止していた。そのため、かつて使用されていた断頭台は、あくまでも歴史的な造形物として保管されていた。オズベリヒはそれを持ち出し、事もあろうに国王に対して使用するつもりである。鎖に繋がれ、引き連れられて来た罪人のように見えた男たちは国王と、この国の政治を担っていた者たちだった。

 一見残酷に見えるギロチンによる処刑だが、実際には受刑者に苦痛を伴わせない処刑法として広まった歴史がある。拷問によるなぶり殺しに比べれば、遥かに人道的で、良心的であるとも言えた。オズベリヒの言う通りであれば、彼のラバーン王国に対する恨みは計り知れないものだろう。その上で、国王の処刑にギロチンを選んだのであれば、彼は単なる殺戮者ではなく、人を殺すことに喜びを覚える異常者でもないことが窺えた。

 だがそんなことはどうでもいい。マレーナは踵を返し、部屋の入り口へ向かおうとした。一刻も早く外へ、広場へ行くつもりである。ところが、彼女が部屋を出ようとすると扉が勝手に開いた。

「離してください! 何をするんですっ!」

 その直後、ひとりの兵士姿の男に連れられ、両手の自由を奪われたファニータが入ってきた。

「ファニータ!」

 マレーナが声を掛けると、その男は手を離して彼女を開放した。

 そして彼は続けざまに、

「お三方をしばしの間この部屋から出さないようにと、オズベリヒ様より仰せつかりました」

 と言い、その大きな身体で扉の前を塞いだ。

「そこをどきなさい!」

 必死な顔を向け、マレーナは男を怒鳴りつけた。

 すると、彼は腰の長剣の柄に手を掛け、

「手段を選ぶなと命じられています。姫君が逆らう場合は、侍女を殺してでも従わせるようにと――」

 言いながら刃を見せるように鞘から剣を少し引き抜き、男は王女の背後に従うファニータとパウラに目を向ける。

「ひっ……」

 声にならない悲鳴を上げる二人。

(二人を犠牲にしたところで、わたしが外へ出ることは叶わない)

 結果は分かっていた。ここで逆らえば、侍女二人を無駄死にさせるだけである。昨日のグレンナのように。あの様なことは絶対に繰り返してはいけない。
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