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メダイユ国物語
第4章 非情な実験
 確かにシルエットは人間に酷似している。だが大きい。大柄な人間の男より、さらにふた周りほど大きい体格である。全身が筋肉質で、太い腕はいかにも力が強そうだ。脚も太く逞しい。ジャンプ力も人間の比では無いという。頭部は人間の面影は全くない。黒目がちの目に先端の尖った耳、上を向いた鼻、牙の覗いた口などから、豚やあるいは猪のような印象が強い。体毛は上半身は薄いが、下半身の腰回りは固く長い毛で覆われている。

 檻の中の獣は、物珍しそうに当たりを観察している。この場所に慣れているのか、暴れる様子は見られなかった。

 檻に当てられた照明が消えた。檻の中は再び薄暗くなり、生物は黒い固まりのようになった。彼を不用意に興奮させないための措置である。

「意外に大人しいでしょう? 彼はかなりの紳士なんですよ」

 オズベリヒは含み笑いする。だがマレーナにはあの獣で何を実験するのか、見当が付かなかった。

「この実験は、彼ひとりでは実行できません」

 その表情からマレーナの考えを読み取ったように、オズベリヒは説明を加える。

「もうひとりの被験者が必要です――おい、連れて来い」

 オズベリヒは部屋に残ったもうひとりの従者に命じた。彼も一礼した後、部屋を出て行った。

(被験者? ドワモ・オーグのことは確か『被検体』と呼んでたはず……)

 マレーナは呼び方の違いに違和感を覚えたが、大したことではないだろう、単なる言い間違いだと、すぐに納得した。

 だが、それは言い間違いではなかった。

 隣の部屋で、ドワモ・オーグの檻が運び込まれた扉と反対側の扉が開いた。そして医療用のベッドが運び込まれた。その上には人が、人間が寝かされている。女だ。その女の姿にマレーナは驚愕した。行方不明だったファニータである。

「ファニータッ!」

 マレーナは立ち上がって窓へ駆け寄る。彼女の名を叫びながら何度も両手で窓を叩く。

「無駄ですよ。その窓は防弾ガラス並みに頑丈です。しかもマジックミラーなので、向こうの部屋からこちらは見えない。ご存じなかったですか?」

「彼女をどうするつもりです!」

 言いながらオズベリヒの元へ駆け寄ろうとするマレーナ。だが手枷と足枷に繋がれた鎖のため、彼に近寄ることが出来ない。

「言ったでしょう? 実験ですよ。彼女が被験者です」
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