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淫魔の宿へようこそ
第5章 情動の意味


いつも通りにお客様達がやってきましたが、ニコルはその中に今晩は再びサイラスの姿を見つけました。

彼はテーブル越しにニコルを見つめてきました。
その視線は熱く艶めかしく、目が合うたびにゾクッとしてニコルは慌てて目をそらしました。


……ニコルはドルードからきつく言われていました。

『くれぐれもサイラスとか、悪魔の誘惑には乗らないようにね。 じゃないと…』

『じゃないと、どうなるんですか?』

『ニコルなんか頭っからバリバリ食べられちゃうよ』


(ううーん……私だって食べられるのは嫌だもの)


ニコルは必死にサイラスをはじめ、他のお客さんと目を合わせないよう努めました。

(でもサイラスさんは、人間離れした美貌の持ち主ではあるわよね)

そんなことを思う時、ニコルの頭にはドルードのあの、どこか物憂げな綺麗な翡翠色の瞳が頭に浮かんでしまうのです。
サイラスと会った後には、彼はいつもそんな表情をするからです。

「ん、上の空でどうした?」

厨房の窓からひょいと顔を出してきたサイラスに話しかけられ、ニコルは目を上げました。

「えっ!?あ、何でもないです」

ニコルははっとした表情をし、しばらくサイラスと見つめ合った後、再び何かに気付いたように真っ赤になって慌てて下を向きました。


そんな二人の様子を、今度は離れた場所からドルードが見入っていました。
ニコル確かに良い娘ではあるし、腕のいい料理人ではありますが、如何せん男性経験に乏しすぎる。 それはドルードの悩みの種でした。

(やれやれ、ニコルは本当に危なっかしいんだから……)

心の中で呟いたドルードはほう、と困ったようにため息をつきました。




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