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ガトーフレーズ
第9章 gâteau pyrénées
きっと忘れられる。
俊太がいた時間なんて、今まで生きてきた中の、ほんの僅かな時間だから……。

繋いだ手を離すことは、とても簡単なことなんだ。



そう思いながらも、しばらくの間、莉乃はそこから動けずにいた。


その時だった。
ふわりと冷たいものが頬を触った。

…………雪?


そういえば、とても寒い……。

見渡すと、景色が煙っていた。

(雪が白いって言ったのは、きっと幸せな人だ。
こんなに、灰色なのに…………)

自分を抱き締めるように腕をまわして、息を吐くと、胸のなかが空っぽになった気がした。
灰色でひたすら冷たいだけの破片が、体に刺さる。

寒いよ、俊太。
もう動けない。

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