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struggle
第1章 大輔 42歳
「じゃあ、行ってくる」

真っ暗な部屋に向かって、そう囁くと、俺は足早に家を後にした。
スーツケースはいつも以上に重い。

普段ならスマホをいじりながらの道中も、今日は違う。
一分でも、いや一秒でも早く駅に辿り着きたい。

まだ日は昇り始めたばかりだ。
それなのに、頭はすっかり冴えている。

ブブ…

人通りが多くなり、早朝とはいえ賑やかな駅前なのに、スマホの振動がこんなにも大きく耳に届くのは、きっとそれが…

『ごめん、寝坊した!!』

届いたメッセージをみて、思わず目を丸くする。
いや、向こうにこちらの表情が伝わるわけがないのは、分かってるんだけど。

怒った顔のスタンプを送りつけてやる。
するとすぐに土下座のスタンプを送ってよこしてくる。

ーああ、そうだ。このテンポ感だ。

『頑張って急いで行くから!間に合ったらアイス奢ってね。』
と続いた。

いや、おかしいだろ!なんでお前が奢られる側なんだよ、普通逆だろ、逆!

思わず心の中で突っ込むけど、同時に笑いが込み上げてくる。

そうだ、昔からどこか、ちぐはぐなやつだった。

『ダブルな』

しかし、既読はつかない。
どうせ今頃走ってんだろう。



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