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きのうの夜は
第5章 天川村
雅之との離婚が成立したのが4月だった。
そこから季節は流れて夏になり私は31歳の誕生日を迎えた。

誕生日に吉村から何かプレゼントをされた様な記憶はなかった。
多分、吉村と付き合っていた頃、記念日なるものはしなかった様に思う。

その代わり、吉村とは頻繁に温泉旅行に行っていた。
離婚してから初めての会社の夏季休暇の時のことだ。

私は、派遣先で働いていた時、夏季休暇は8月ではなく9月に入ってから取っていた。
何故なら、8月はお盆があり親戚が集まるからだった。

そのお盆の行事に参加したくなくて、そのお盆の時期にわざと仕事を入れていた。
そんな経緯から、私は夏季休暇を9月になると取っていたのだ。

吉村も同じく9月になってから夏季休暇を取っていた。
二人で同じく9月に夏季休暇を取っても、会社の人たちは私たちの関係に気づく人はいなかった。

私は結婚していると思われていたし、吉村は大阪の実家に帰省すると誰もが思っていたからだ。
8月のある日、私のアパートに吉村が来た時の事だ。

「彩夏、お前、夏休みはどこかに行くのか?」
「え?別に計画してないけど?何故?」

「じゃ、一緒に温泉旅行なんてどうだ?」
「え?温泉旅行?行くわ…」

「どこに行きたい?」
「んー?」

私はこの時ちょっと考えた。
そして、ある映画を思い出していたのだ。

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