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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
縁側に立った公之は円い月を振り仰ぎ、ふと呟くように言った。
「姫は前(さき)ほど、何か書いておられたようですね」
公之が訪れるまで書いていた漢詩のことを言っているのだと判り、公子は頷いた。
「見せて頂いてもよろしいでしょうか」
催促され、公子はすぐに立ち上がり、文机まで漢詩を書き付けた紙片を取りに行った。
薄様の美しい和紙を差し出す。
公之は黙って受け取ると、その紙を食い入るように見つめた。