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無垢な姫は二度、花びらを散らす~虫愛ずる姫君の物語り~
第6章 伍の巻
相変わらず、巨大な門の周辺には犬の子一匹見当たらない。白昼さえ淋しい辺りだが、この夜明け前の時間は尚更深閑として、公之でさえ近付くのを躊躇するような殺伐とした雰囲気が漂っている。
公之の脳裡に、最後に見た公子の泣き顔が甦る。
―公之さまも、所詮はあの方と一緒だったのですね。あの方も私にあなたと同じことを仰せでした。私がすべて悪いのだと、私が隙を見せることが、殿方を誘うのだと。
そう言って、泣いていた。