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第163章 第九章　懺悔

何も言葉が出なかった。
弁解する余地も無い。

顔を上げ、悟を見る事さえできない。
その後ろにたたずむ妻のことも。

そんな男のいじらしい姿に裕子の胸はキュンとなった。
克己の姿を整え終えると、うつむく顔を抱き寄せた。

「うっ・・ううっ・・・」
溢れる涙を停めることが出来ず、克己は裕子の胸に顔を埋めた。

「井上君・・・」
愛おしそうに男の名を呼ぶ裕子は、優しく髪を撫でている。

悟は恋人の仕草に嫉妬を覚えながら、見つめることしかできなかった。
芝居とはいえ、裕子の愛撫は本気のように感じた。

裕子からは井上に対しての恋心も聞いている。

最初から互いの「想い人」を共有するつもりだったとはいえ、流石に目の前にしたショックは隠せない。

井上をかばうように抱きしめる裕子の表情に、本気の愛情が感じられるからだった。

長い沈黙が続いている。
どれだけ時間が過ぎたのだろうか。