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第164章 第十章　交換条件

「お、俺・・・」
井上が話し始めた。

「専務・・副社長を裏切りました・・・」
ポツリポツリと声を絞り出していく。

「春香さん、ゴメン・・・」
名前を呼ばれて春香は顔を上げた。

「君を裏切った僕は最低だ・・・」
「克己さん・・・」

夫の表情に春香は切ない気持ちが込み上げる。
「裏切り」というフレーズに、自分の罪の重さを感じてしまうのだ。

「こんな僕は・・・
君と別れた方が良いのかもしれない・・・」

春香の想いに気づかない男は言葉を繋いでいく。

「それに・・・」
右手をギュッと握り、肩を震わせている。

「専務・・副社長の方が・・・」
「井上っ・・・」

悟が遮るように怒鳴った。

「それ以上、言うなっ・・・」
無意識に春香の肩を抱きしめている。

悟も井上を追い立てている矛盾と罪悪感に、いたたまらない気持ちになっていた。
元はと言えば、自分から仕掛けた罠なのだ。

「克己さんっ・・・」
春香も涙を流しながら夫の名を呼んでいた。