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第215章 第八章　リング

「だから・・・」
低い声が徐々に現実に引き戻していく。

「オヤジと共有した・・・」
「えっ・・・？」

裕子が顔を上げた。
涙で濡れる瞳が光っている。

ようやく天使を見ることができて口元を綻ばせた。
ずっと泣き止まないかと不安になっていたからだ。

「ひどいよな、俺・・・？」
裕子と額を合わせるようにして囁いている。

「そ、そんな・・あれは私から・・・」
裕子は即座に否定した。

いくら早苗から命じられたとはいえ、「奴隷秘書」になる決心をしたのは自分自身なのだから。

興奮の中、集団催眠のように悟の父である幸造に身を投げたのは、消すことが出来ない事実である。

「いいや、俺が悪い・・・」
だが、悟はキッパリと否定した。

「俺が臆病だったから・・・
君を幸せにする自信がなかった・・・」

「さ、悟さん・・・」

裕子は感動で胸を震わせている。
ずっとわだかまっていた想いを男が晴らしてくれた。

「だけど、春香と克己・・・
二人に出会ってから分かったんだ・・・」

男の言葉を遮ることなくジッと耳を傾けている。

「本当に愛しているのは裕子だけだと・・・」
「あぁ・・・」

「あの異常な興奮が冷めても・・・
裕子が愛おしいと思えたのが嬉しかった。
お前への気持ちが本物だとわかったんだ」

「悟さん・・悟さん・・・」
又、涙が溢れてくる。

「愛している、裕子・・・」
「ああぁ・・・」

言葉が出ない。
抱きしめられるまま身体を預けるしか出来なかった。