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幻影の胡蝶 〜桃源郷の寵妃達〜
第2章 桃源郷は地獄だった
『私はあの人の元に戻りたい。』





いくら愛を囁いても、この腕に抱き締めても。

彼女は決して俺のモノにはならなかった。

ただ毎日、俺の側で違う男を思って泣いていた。






「……朱雀様……。」

朱雀が起きている気配に、一緒に寝屋にいた桔梗もまたその体を起こした。





まだ眠たそうに目を虚にさせて、見上げる顔に、朱雀は顔を緩めて桔梗を見た。

そしてそっと彼女の顔を両手で包むとその頬にキスをする。






「…起こしてごめんね…。」

桔梗を抱き締めながら、そのままベットに2人で横になった。

桔梗は再び朱雀の腕の中に入ると、安心した様に目を瞑った。





胡蝶が居なくなり、朱雀や他の四天王の心の穴を桔梗は埋めてくれた。

その中で、朱雀が1番桔梗に依存した。

それほど胡蝶が居なくなった衝撃が1番酷かった。





一時は廃人になりかけた朱雀にみんな心配した。

桔梗が上手く朱雀の心の隙間に入ってくれたおかげで、朱雀が安定してきたのを見て、彼女を1番の寵妃にする事に誰も文句を言わなかった。





朱雀は今でも胡蝶の夢を見る。

一緒に過ごした時期の全てが幸せそのものだった。

忘れろと。

そんな事を簡単に言われるほど、この気持ちは軽く無い。





もう200年前の出来事だった。






「……胡蝶は幸せに暮らしているだろうか……。」

「………………。」

たまに憂う様に、朱雀は桔梗にそんなことを聞く。





桃源郷にいれば時間の感覚が無くなるのか…。

胡蝶はとっくに、その生命を全うしているだろう。

今度は桃源郷に来る事も無く。

きっと会いたかった最愛の人と。

その人生を全うしたに違いない。





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