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銀狼
第8章 雨(アマ)の鎮魂歌

暮色が迫る中──

周りの木々の、ピンク色に見えた花が今は赤紫に近い色に変わりだした。

銀狼が野原を踏みしめる音が、鳥の囀ずりと共に静かに響いている。


「──なら、あなたの名前も教えてほしいわ」

「私の名を…?」


銀狼は歩みを進めつつ首を傾いだ( カシイダ)。


「…私に名など無い。いや、名はあるが…お前たち人間の持つ名とは意味が違う」


人間は、互いを呼び合うのに各々の名を用いる。


「我等にとっての " 名 " とは、 " 存在 " の象徴──。其処に在る事を示す物。…言葉や文字におこす必要はない」

「そういう…ものなの…?」

「それ故に、名を奪われる事は存在を消されるに等しい…。逆に、名さえ知れば、其の者の全てを支配することが可能だ」

「言葉におこせないのに、どうやって知るの?」

「人間にはわからんか…」


──人間には知りようもない。

言葉を使い、文字を作り

どのような記憶も感情も、言葉無しには成立しないお前達では。


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