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第10章 俺の弟は…
定時で仕事を終えた翔と渚は、足早に琉のマンションへと向かっていた。


「……あ!翔さん待って!」

途中にあるスーパーの前で、渚が足を止める。

「琉くんが料理出来るから、せめて食材だけでも買って行かない?」

渚の言葉に頷き、翔と2人でスーパーの中へと入る。


「渚も料理とかするの?」

手慣れた感じで野菜を買い物カゴへと入れていく渚に、翔は期待も込めて聞く。


「実家暮らしだから……愛里咲ほど上手じゃないですよ」

唇を突き出すようにして拗ねてみせる渚。

「…………食べてみたいな、渚の手料理」

それすらも愛おしそうに目を細めた翔は、いつかの反省も込めてそう呟いた。


スーパーの野菜コーナーでイチャつく2人。

夕飯の買い物に忙しい人たちが、邪魔臭そうに2人を見ては野菜に手を伸ばす。

それにも気付かず見つめ合い、微笑み合う2人に、

「渚⁉︎ うわ、久しぶりー!誰、この人。渚の彼氏?」

無遠慮な声が掛けられた。


渚が振り返れば、そこには…

「芙美⁉︎ 」

精神的に追い詰められていた愛里咲に決定打を与えた張本人、芙美が居た。


「芙美⁉︎ 何で居るの⁈ 」

高校時代に特別仲が良かった訳ではないが、芙美が電車通学だったのは知っている。

芙美の家からは、電車に乗らなければ来れないだろう町の、しかもスーパーで会った意外な人物に、渚は驚いた声を上げた。


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