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第3章 弟の会社
陽向の泣き声に、ようやく解放された愛里咲。

グッタリと疲れ果てた身体で、陽向に授乳する。

琉に背を向けているのは、せめてもの反抗だ。



「愛里咲……」

琉の声にピクッと反応したのは、陽向の方だ。

愛里咲は、琉のその優しい声色に少しだけ驚いた顔で振り返る。


「……白取さんの事……」

その、名前に……ビクリと愛里咲の身体が強張る。

愛里咲がまだ入社したての頃、当時の上司だった白取と部長の塚本にされた事…

思い出したくもないその出来事は、今も愛里咲の心を抉るように苦しめる。

でも、

珍しく言いにくそうで歯切れの悪い琉の様子に、愛里咲の口元は少しだけ綻びる。


「幸せ過ぎてずっと忘れていたんだけどね。……まだ、完全に”過去”の事だと笑えないみたい……」

それでも、半泣きの笑顔を琉に向ける愛里咲。

堪らず、琉は愛里咲を抱き締めた。


「笑えねぇなら笑わなくていい。その辛さを忘れらんねぇなら……俺が泣かせてやる」


その言葉に、愛里咲の瞳から涙が零れ落ちた。

「ふふ…琉ちゃんの”泣かせてやる”は、なんか違う意味に聞こえる」

ムッと不機嫌に細められた琉の目は、泣き笑いする愛里咲を見て優しく細められる。


「兄貴には、その話はすんなって言っとくから。愛里咲が関わる事なんてもう無いんだから、思い出さなくていい」


愛里咲の背中にピッタリと、琉の背中が預けられる。

背後に感じる温もりに、愛里咲は嬉しそうに目を細めた。

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