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人妻コレクション~他人に抱かれる妻たち
第24章 志津〜人妻ランナーの秘密
壁の時計は午後8時を示している。

明日を考えればそろそろホテルに戻るべきかもしれない。

「志津さん、10キロは午前9時スタートでしたっけ」

「佐野さんはハーフだから」

「私は8時です」

「じゃあ、もう戻らないと」

どこかで彼が否定してくれることを望みながら、志津はそう訊いた。

だが、人妻の心の揺れに気付かぬまま、彼はあっさりと答える。

「行きましょうか」

「はい・・・」

店を出た二人は、爽やかな風がなびく夜の小径を並んで歩いた。

「素敵な街ですね」

志津のそんな言葉に、彼が笑みを浮かべる。

「1泊なんかにするんじゃなかったなあ」

そう、明日の今頃はもう自宅に帰っているのだ。

彼の言葉に、志津はそんなことを思い出し、少しばかり心を沈ませた。

そして、二人はホテルに到着した。

「志津さんは何階ですか」

「8階です。佐野さんは?」

「10階です」

ロビーには静けさが漂っている。

エレベーターに乗るのは志津と彼、二人だけだ。

扉が開き、二人で狭い空間に乗り込む。

「シャワーを浴びて、早く寝ないと・・・」

動き始めたエレベーターの中、志津がそう言いかけた時だった。

隣にいた彼が突然志津を抱きしめてきた。

「えっ・・・」

決して乱暴な仕草ではなく、それはごく自然な抱擁だった。

「志津さん・・・・」

一瞬見つめあった後、彼が優しく志津の唇を吸った。

「あんっ・・・」

夫以外の男性にキスされるなんて・・・

彼の手が、志津の背中から腰のあたりをゆっくり撫でてくる。

「駄目っ・・・」

甘い息を吐いてしまった自分に気づき、志津は彼の体を後退させた。

「佐野さん、いけません・・・」

8階に到着し、静かに扉が開く。

「志津さん、すみません・・・」

志津の肢体から離れ、彼は素直に詫びた。

「私たち、少し飲み過ぎたみたいですね」

志津の冗談に、彼が自分を取り戻したように笑みを浮かべる。

「お茶だけで酔っちゃうなんて」

「ふふふ、ほんと」

しばらく見つめ合う二人。

そして、彼が言った。

「おやすみなさい」

「ええ・・・、おやすみなさい」

エレベーターから出た後、振り向いた志津に彼が言った。

「走り終わったら、志津さんを応援しますよ」

明日の再会を約束する彼の言葉と共に、エレベーターの扉が閉まった。
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