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アネゴ的カノジョ
第4章 蘇る本能
 
「で、でも、キョウちゃんっ」

 小さな背中に向かって口を開く。

 自らの頼みで散々な目に遭わせてしまった心苦しさが、町会長の足を止めさせていた。

「い、良いからっ。大丈夫だからっ。
 もう、見回りも終わったし、何も無かったから帰ってよっ」

 そんな町会長に視線を向ける事も無く、俯いた儘の杏子。

 手先や髪の毛から滴る滴が床を濡らしていく。

「キョウ…ちゃん………」

「………」

 不安な表情で見詰める町会長。

 その視線の先では、肩が微かに震えている。

 しかし、無言を貫き始めた杏子に、言葉が続かなかった。

「わ、分かったよ……。風邪…引かないようにね………」

 ただならぬ雰囲気に表情を曇らせながらも、町会長は杏子の勢いに踵を返した。

 バタンと扉が閉まる音。

 依然降りしきる雨音の中に、鉄階段を下りる足音が届く。

「……ホントに……何も…無かったん…だよ………」

 杏子の微かな呟きは、激しい雨音に掻き消される。
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