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アネゴ的カノジョ
第5章 陽と陰
 
 怪訝そうに尋ねる職人の声は聞こえてなかった。

 数少ない信号に引っ掛かっていた。

 外を見れば、武彦の姿があった。

 杏子の脳裏に瞬時に蘇る記憶。

「な、何でも…ないからっ」

 言葉とは裏腹に、真剣な眼差しで外を見詰めて体を強張らせる。

「そ、そっか……」

 杏子の勢いに押される職人。

 信号が変わったのを幸いと、視線を前に向けて軽トラックを走らせる。


…こっち…見ないでよ…?


 窓から顔を背けて、座席に浅く座る。

 チラチラと怪訝そうに視線を向けてくる職人だったが、杏子には相手をしている余裕など無かった。

 横目で外の様子を窺うと、その距離は縮まっていく。


…もう…アタシは変わるんだから………


 大きくなる武彦の姿に、ドキドキと鼓動が早まる。

 頭に過去の事が浮かび上がってくる。


…だからアタシは変わるんだって………


 ブンブンと頭を振る杏子を訝しく見る職人。

 距離も詰まり、軽トラックと武彦が擦れ違う。

「…はぁ……」

 座り直して溜息を吐いた杏子。

 武彦が立ち止まって振り返っていた事など、知る由もなかった。
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