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鬼灯の寵愛
第1章 幾千の時を越えて
「――丁さん、はい」

彼女が差し出したのは、小さなヤジロベエだった。

「……私に?」
「はい、あげます」

無邪気な笑みを浮かべて差し出されたそれを、そっと受け取る。
そのまま指先に、乗せてみた。

「左右均等の重さじゃないですね。少し左に傾いていますよ」
「私が作ると、どうしてもそうなっちゃうんです。これでも上手にできたほうですよ?」

彼女の手作りらしいヤジロベエは、僅かながら左寄りにゆらゆら揺れている。

「……ありがとうございます。大切にします」
「ふふっ、嬉しいです。いつも外の話をして楽しませてくれるお礼にと思ったんだけど、私が貴方にあげられるのはこれくらいしかなくて」
「いえ、充分です。このような贈り物は初めてです」

左寄りに傾いたヤジロベエを見つめながら、淡々とした口調で話す少年は、みなしごの丁。
話相手は、布団から起き上がった態勢で微笑んでいる少女。

「そう言えば、今日の貴女は顔色が良いですね。具合は良くなってきているんですか? 姫」

姫と呼ばれた少女は、うーん、と唸りながら首を傾げた。

「良い時も悪い時も同じくらいあります。今日は丁さんとお喋りできたから、いつもより元気です」

真っ直ぐに、屈託の無い笑顔を浮かべる姫。

「…………そうですか。そう言って頂けると嬉しいですね」

丁は思わず目を逸らしてしまった。姫の笑顔が眩しくて、胸が高鳴る。

「丁さん、もっと貴方とお喋りしていたいけど……そろそろ父上様と母上様が帰ってくるわ。貴方とお喋りしているところを見られたら……」
「そうですね、村長と奥方様は私を嫌っていますから」

姫の言葉に我に返り、立ち上がる。

「また今度いらしてね」
「ええ、ではまた」

部屋を出ようと歩き出すが、途中で振り返った。

「今度は、私もヤジロベエを作って差し上げますよ」
「えっ、本当に?」
「はい、きちんと左右均等にして作ってあげます」
「ふふ、ありがとう、丁さん」

… … … …
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