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毒舌
第25章 大禍時/前編
「では何がさみしい」
口許に
微笑を浮かべてはいるが
男の目は笑ってはいない。
歩み来る男に
おりょうは後ずさった。
「いい加減昔の男など忘れてしまえ。お前はもう俺の妻だ」
今にも泣き出しそうな顔で
おりょうは男を見上げた。
「あなたは、わたしが、なんとよばれているか。知らないのですか」
「ああ?下世話な女房たちが陰口を叩いていたな。気にしているのか」
男は
こどもをからかうように
おりょうの髪を
一束指に取り
玩ぶ。
「『もののけ憑きの姫』。確かにお前はこの世の者とは思えぬくらい、」
「違います。私にはたくさんの妖怪が宿っているのです。人の妻になど、なれるはずもありません」