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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
ふと、相手の眼(まなこ)が自分の胸から腰の辺りを執拗に眺め回しているのに気づき、小紅はゾッとした。舐めるような視線は着物を身につけているにも拘わらず、全裸にされた素肌の上を無骨な手のひらで撫で回されているような気分になる。
一見した印象は物腰も穏やかな商人のようだけれど、双眸に閃く光には油断ならぬものがある。小紅はこの肥前屋長次郎という男がひとめで嫌いになった。