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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第12章 第一部・第三話 【月戀桜~つきこいざくら~】 十六夜の月
二十代後半と見える男はどう見ても、なりは職人風で、けして裕福そうには見えなかった。どうも酔っぱらって帰る途中、荒れ寺をたまたま通り掛かったのか、ここで酔いを覚まそうしたのかは知らないが、厄介事に巻き込まれてしまったらしい。
ふと興味を憶えて覗き込んだが運の尽きといったところか。今夜の栄佐は藍の着流しに刀を帯びている。酔った職人が彼を武士だと勘違いしてしまうのも道理だ。