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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第13章 第一部第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 龍馬という男
その日も小紅は思いつめて、ぼんやりと歩いていた。人通りの多い往来とて、ひっきりなしに人が通りを行き交っている。心ここにあらずといった体の小紅は向こうから全速力で荷馬車が走ってくるのが眼に入っていなかった。かなり急いでいるらしく、荷を満載した荷車を引いた馬を中年の屈強な男がしきりに鞭で急かしている。
「馬鹿野郎ッ、死にてえのか。天下の往来を真っ昼間からボウっとして歩いてるんじゃねえっ」
「馬鹿野郎ッ、死にてえのか。天下の往来を真っ昼間からボウっとして歩いてるんじゃねえっ」