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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第14章 第一部・第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 熾火(おきび)
 栄佐に何も話せないというのは彼に対して大きな秘密を持つことでもあった。小紅の面に失望の色が浮かんだのを見てとったのだろう。磊落なようだが、人の顔色や感情の動きを見るのは長けた男なのだ。
「おまんの気持ちは判るがのぅ。今は辛抱しや。惚れた男のためと思うて何食わん顔をしとき」
「はい」
 小紅は素直に頷いた。龍馬の言うことは道理だと納得できたからだ。龍馬はそんな小紅に眩しげな一瞥をくれた。
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