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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第15章 第一部第三話【戀月桜~こいつきざくら~】 すれ違い
栄佐は懐から桃色の布に包んだ小さなものを取り出した。無造作に小紅に差し出す。
「これ」
「なあに?」
眼を丸くして栄佐を見ると、柄にもなく端正な面がうっすらと染まっていた。
「開けてみろよ」
言われるままに包みを開くと、簪が出てきた。親指の先ほどの小さな丸玉がついていて、桜の花びらを彷彿とさせるびらびらが二連、玉から垂れている。玉は血赤を思わせるような深紅だ。