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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第16章 【戀月桜~つきこいざくら~】決着~安政六年四月五日宗徳寺
―そういえば、和泉橋町の辺りで妙な噂を聞いたがや。時のご老中の甥御にも当たる直参旗本八千石の殿さまがゆく方知らずになっとるそうな。まあ、事が事だけにご家中にても必死に殿さま失踪を隠し通し、病気療養中と苦しい言い訳をしとると聞いたきぃに。気の毒にのぅ。八千石といえば、大名格にも準ずる高禄のお家じゃ。それが殿さまが何もかもほっぽり出して遁走したとくれば、残った家臣一同、途方に暮れるじゃろう。殿さまは気の病にでも取りつかれておるがのぅ。もしくは本物の阿呆かもしれん。