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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第20章 第二部・第四話【悲願花~女になった男~】 定命  
 どうやら、小紅の不幸は更に極まったようである。ぶつぶつと口で呟いている内容からは、件(くだん)の浪人がたった今、家宝だと信じて疑わない天下の名刀を質に入れようとして、見合うだけの金を寄越さなかったと憤っていることが窺えた。
 浪人には気の毒だといえるが、小紅のあずかり知ったことではないのも事実である。
 浪人が腰に佩いた刀をスと抜いた。家宝を質草に入れるほどの逼迫した暮らしであれば、腰の刀も竹光かと期待したのだが―、どっこい、そうはゆかなかった。
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