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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第1章 【残り菊~小紅と碧天】 始まりは雨
「お嬢さまには大変申し上げにくいのですが、これは恐らくは予め計画されたものでは」
「―」
最早、言葉もなかった。昔の父ならばともかく、今の父であれば不思議はない話である。
次々と入ってくる情報は小紅にとっては耳を塞ぎたいものばかりだった。
父は例の岡場所の女、お佐津と手に手を取って出奔したのだ。店の金と家宝を持って。しかも、小紅は迂闊にも知らなかったが、父は方々に多額の借金を拵えていた。