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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆
 だが、それは杞憂というものだろう。若い当主夫妻の背後にはいまだ健在の隠居、先々代市兵衛こと陽斎やその妻お彩も控えている。当分は隠居である陽斎が後見するだろうから、京屋の采配も滞りなく進むはずだ。
 納期までにまだ時間は十分ある。今日のところはこれくらいにしておこうと、小紅は縫いかけの小袖をきちんと畳み、裁縫道具も片付けた。丁度その時、表の腰高越しに声がかかった。
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