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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第22章 第二部・第五話 【冬柿】 予兆
「納期までまだゆとりがあるしね」
「そうか」
栄佐はあっさり頷き、今度は訊きもせずに上がり込んでくる。いつものことなので、小紅も特に気にしない。
「お茶でも淹れましょうか?」
栄佐がわざと素っ頓狂な声を上げた。
「何だ何だ、いつになく気が利くじゃねえか。お前が殊勝にお茶を淹れましょうか、なんて言った日にゃア、江戸に紅い雪が降るぜ」
女形の声色で小紅の口真似をした彼を、小紅は軽く睨んだ。