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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第23章 第二部・第五話 【冬柿】 冬柿
―殿、殿ォー。どうか角倉家をお見捨て下さいますな。殿がお家を棄てられては、東照大権現さまの御世より続いた角倉氏は絶えてしまいまする。
 また、あの悲痛な声が耳奥でこだまする。彼は咄嗟に両の手で耳を押さえた。
―殿、我ら家臣一同はいつまでもお待ち申し上げておりまする。殿がお心を変えられてお戻りあそばされるその日まで、それがしが何とかお家をお守り致しますゆえ。
 袴に取り縋って放そうとしなかった守役を振り切って屋敷を飛び出した、あの日。
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