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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第2章 【残り菊~小紅と碧天~】 恋一夜
「小紅」
 武平が小紅の漆黒の髪に顎を当てた。
「私も今、この場でお前を私のものにしてしまえたらとどれだけ思うことか。だが、あれほど一途にお前を慕っている倅の気持ちを知りながら、それはできない。仮に私たちはそれで良くても、あれは、お前を失えば本当に駄目になってしまうだろう。不甲斐ない私を許して欲しい」
 そして、最後に囁かれた科白はたった一言。
―忘れてくれ―
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