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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬
栄佐が焦りを滲ませて往来を見つめていたのと同じ時刻。小紅は同じ川辺屋でやはり、窓辺から外の景色を眺めていた。
何と小紅が閉じ込められていたのは栄佐がいる同じ二階の一室であった。もっとも栄佐の部屋は左端で、階段を上がったすぐその先、小紅がいるのは真反対の奥まった一角右端だった。二人は互いに近くにいるとは知らずに、それぞれが互いの面影を胸に抱いて切なく苦しい物想いに囚われていたのだ。