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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬
 その一刻後、太陽が姿を隠し、気まぐれな夜が小さな宿場町を包み込んだ。冬の夜は始まるのは早いが、明けるまでは気が遠くなるように長い。下弦の月が銀色の透徹な光を放ち、月明かりに濡れた夜の風景はどこか現とは思えぬような幽玄さすら漂わせる夜だった。
 旅籠川辺屋の二階―奥まった座敷では、小紅が緋色の褥の上で小刻みに身体を震わせていた。
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