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一度だけ抱いて~花は蝶に誘われてひらく~
第27章 第二部・第六話【春咲く花】 逢瀬
「私は十度」
 抑揚のない感情をどこかに置き忘れたような声がかえって小紅の恐怖心を煽る。
 その応えに、信右衛門が笑い声を上げた。
「十度も気をやっては、それこそ本当にこの娘が死んでしまうかもしれん」
「信右衛門さま、極楽と死は常に隣り合わせ、この世の法悦を得て娘が落命するとすれば、それも致し方なきこと」
 どこか虚ろでいながら、淫らな熱のこもった声音は低く、倒錯的な壊れたような響きがある。小紅は膚が粟立った。
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